初の朗読会

  
  朗読会というものには昔から興味があった。
 でも自分は「評論家」なので、詩や小説のように朗読向きなものは書いていないかもしれない。

 数年前、自前で朗読会をしたいと思ってそれ用に新しくお話を書いてみた。
 僕の妻が死んで猫になって「朝まで生テレビ!」に出て愛を叫ぶ、というカミさん自身が見た夢を物語にしたのだ。
 でもなんとなく日常に紛れてしまい朗読会構想は実現しなかった。
 やっぱり、なんの成算もなく新しいことに自前でチャレンジするっていうのは、なかなか出来ないものだなと思った。
 でもそのとき書いたお話をアレンジして切り張りして、『失恋論』という本に載せた。

 二ヶ月ほど前、田口ランディさんから今日の朗読会に誘っていただいた。ランディさんからは「『失恋論』で奥さんが猫になる夢を見た部分はどうですか」とリクエストいただいた。
 なるほど、と思った。

 しかし、猫の部分だけ読んでも読者に伝わるだろうかと不安もあった。

 そこで、忘れていたことを思い出した。
 もともと自分は数年前、朗読会をやろうなどと夢想していたはずではないか。しかもあの猫の話で。

 かつてのぼんやりした夢の実現として、そのお話を原型の形にほぼ戻した形、つまり『失恋論』とは別バージョンで読ませていただこう、と決意した。

 この別バージョンは主人公も僕とは別の名前だし、猫の名前も違う。猫の名前は『失恋論』では「うめ」、もとの原稿では「もも」なのだが、これは両方とも僕の飼い猫の名前。
 今回は「もも」バージョンだったわけだが、会場にも来ていたランディさんの娘さんの名前も「もも」ちゃんだったことに後で気づいて、ちょっとうろたえた。意識していたら、名前だけは「うめ」にしていただろう。

 『失恋論』収録の際はほとんどカットしたが、この別バージョンでは「朝まで生テレビ」の部分が妙に膨らんでいて、宮崎哲弥さんや大谷昭宏さん、藤井良樹さんみたいな人が出てきたり、田原総一朗さんの亡くなった奥さんとのバックボーンが詰め込まれていたりと、盛りだくさんな内容になっている。
 妻の夢の中で、猫になった自分に大谷昭宏さんが目を細めて、意外にこの人いいオジサンかも!?というディテールまでハッキリあったのだ。
 田原総一朗さんは妻と恋人を長年二股かけて両方とも癌にしてしまったという、業の深いドーランオヤジである。

 当日、他の仕事があって駆けつけねばならなかったのでリハーサルに参加できず、自宅で最初から最後までためしに読んでみた。
 すると、意外に長く、22分かかった。パソコン用紙の印字で11枚分だった。
 朗読の時間は10分。半分以上カットせねばならない。
 
 そこで細かいディテールを落として用紙7枚半ぐらいまでに縮めて、あとは「すみません15分ぐらいかかるかもしれません」と事前に断ればいいかなと皮算用した。

 本番は、やや早口だったかもしれないと反省したが、ちゃんと話は聞き取れたという声があったので少し安心した。

 最後のランディさんの朗読が虫や犬、人間と短い人生を繰り返し転生する魂を妥協なくシリアスに描いた作品だったので、僕のはそのソフィスティケートバージョンかも、と勝手に思った。ひょっとしたら、そこまで考えてランディさんは猫の話をリクエストしてくれたのかもしれない。

 ランディさんの、なにかが降りてきたような朗読はすごかった。

 猫の話を書いているとき、三行先を思い浮かべるだけで涙が出て、号泣しながらやっていたことを思い出した。
 批評を書いているときには一度も体験したことのない感情だった。
 それでいて、僕は妻を裏切り、別の女性に恋していたのだから、まったく人非人としか言いようがない。

 僕の朗読が終わった後、ランディさんから「失恋論ってどんな本なのか、みんなに一言」というツッコミがあったので、僕はこのお話を書いていたときの自分のその矛盾した状態を告白せざるを得なかった。
 「とっても情けない本です! ぜひ皆さん読んでください」とランディさんは言ってくれた。おかげで会場に置いてもらえた本が何冊か売れた。

 当日、ひきこもりとアル中経験者である月乃光司さんやさまざまな方たちの朗読やパフォーマンスは、人間の持つどうしようもなさ、恥ずかしさ、情けなさをさらけだし、じかに言葉を届けようとするものだった。

 共演した藤本由香里さんが「底を打つ」感覚だと言ったが、まさにジョン・レノンが求めたプライマル・スクリームそのものに触れた一夜だった。

 その中で、自分の朗読はややこざっぱりとしていたかもしれないが、いい機会を与えていただいた。

 月乃さんたちは、なにかのジャンルや形にのっとって表現しているのではなく、草も木も生えないかもしれない場所で、いやそうだからこそ、自分の感じたものをじかに伝えようとしていた。だからこそ、聴く側にもまっすぐ入ってくることが出来るのだ。
 僕も、形に囚われるばかりでなく、新しいことでも躊躇せず、出来るようになりたいと思った。

 

 DATA
 
田口ランディ月乃光司
ジョイント朗読会inポレポレ坐
真夏の夜の夢
 一夜限りの出会いだけれど

出演   田口ランディ 月乃光司
ゲスト  雨宮処凛 切通理作 藤本由香里 村松恒平 アイコ アキラ
ギター  タダフジカ

こわれ者の祭典」でおなじみの絶叫のアル中ランボー月乃光司と、作家の田口ランディトークショー&ジョイント朗読会です。若者よ勇気を出そう。おじさんもおばさんも、こんなにみっともないが生きている。
「生きがたい」ことを抜けて「死にがたい」境地へ!

日時 2006年8月26日(土) 開場18時 開演18時30分

場所 中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル1F
   カフェ・ポレポレ坐
   地図http://www.mmjp.or.jp/pole2/

料金 3000円(ワンドリンク付)

割引サービス
ひきこもり、精神障害、鬱などで仕事ができない方のための
割引料金を設定しています。
予約時に自己申告してください。
   2500円(ワンドリンク付)

身障者の方は無料です。
予約時にメールにてお知らせください。
恐れ入りますが当日に障害者手帖をお持ちください。

■■■申し込み方法■■■
下記にメール、またはお電話にて予約申し込みください。
予約整理番号をお送りします。

ポレポレタイムス社 
メール polepole_event@yahoo.co.jp
電話  03-3227-1405

※座席数が限られておりますので、なるべくご予約ください。

■イベントスケジュール
第一部 田口ランディVS月乃光司 トークDEナイト
   生きてりゃいいことあるってホントですか?

第二部 月乃光司ライブ

第三部 ゲストコーナー
    何が出るかはお楽しみ!

第四部 ライブコーナー
    アキラ 月乃光司&アイコ

第五部 田口ランディ朗読