中森明夫さん初の批評集

  中森明夫さんから『アイドルにっぽん』という本を送ってくださっていたので読んでいたのが終る。
  初めての批評集なのだという。
  もともとは写真とコラボしていたものでも今回はすべて文章のみのストイックな編纂。でいながら最後の最後で若き日の中森さんがゴクミと宮沢りえと撮った写真が載っている。アイドルと邂逅し得た瞬間に還っていこうとする永遠性、がテーマか。
  アイドルは「写真」そのものだと中森さんはいう。写真は時を越えてその瞬間を永遠化するからだ。そしてこの本は先のただ一枚を除いて、写真そのもののない写真論。幻の湖を追っているがごとくだ。
  中森さんは当然ペンネームなのだが、考えてみれば、彼の本名がなんなのかという興味を持ったことはただの一度もなかったことに気づく。
  中森明夫という存在自体が、アイドルという、虚構が介在することでしか成立し得ない存在の、逆説的な「かけがえなさ」に投企した観念の写し身なのか。
  中森明夫の文章は繊細にして大胆。その大胆さはアイドルと出会った瞬間のかけがえなさによって勇気付けられた跳躍かもしねぬ。
  いま中森氏は中年の粋。自分には家族も恋人もコレクションもなく、あるのはアイドルの記憶だけだという。
  その孤独が求める、時間も空間も飛び越えた「絶対」。
  おたくの命名者の中森氏だが彼自身はアイドル「おたく」ではない。おたくは姿は一人でも同好の士の存在によって保障されている。だが彼にとってのアイドルは、徹頭徹尾彼の孤独を浮かび上がらせる存在だ。
  そしてその孤独によって万人とつながるのだ。僕はこの本に当たり前のように載っている女の子の名前さえ、半分ぐらいしかわからない「アイドル音痴」だが、この本を自分にとって必要な読み物として受け取ることが出来た。