佐々木守さん追悼

  明日出る『失恋論』(角川書店)で、古今東西の恋にまつわる小説や映画などを紹介する「失恋図書館」のコーナーでは、全6章に合わせて各5〜8本づつ作品を挙げているのですが、その中で『ガス人間第一号』や市川森一さんの『バースディ・カード』、『ウルトラマン80』の「泣くな初恋怪獣」などとともに書かせていただいたひとつが、『竜宮城はどこですか』でした。
 この小説は、佐々木守さんが、自ら脚本を担当された七十年代の昼メロ『三日月情話』(ごく最近ファミリー劇場でも放映されていました)をジュブナイルとして書き直したものです。
 佐々木さんが生涯賭けて追い求めた「日本原住民」のテーマで書かれた作品です。
 『三日月情話』に触れた僕の本(『怪獣使いと少年ウルトラマンの作家たち』)を読んだくもん出版の編集者さんが、佐々木さんご本人に連絡を取って実現した書き下ろし作品でした。
 
 昨今でこそ、高橋克彦さんはじめ先住民族テーマのエンタテイメントは珍しくありませんが、大量のテレビドラマをこなしながら、四十年前からそれをやっていたのが佐々木さんでした。

 佐々木さんとお酒をご一緒したとき、おっしゃっていたことでとりわけ印象的だったのは、次の発言でした。
 自分はテレビドラマのメインライターをやるとき、第一話から、その設定の中でやれるオイシイところは全部つぎ込む。出し惜しみをしない。それは、後から後から湯水のごとくアイデアが浮かぶから……ではない。最初につぎ込めば、もちろん途中でスカスカになる話も出てくる。でも視聴者は「前あんなに面白かったのだから、次こそ面白くなるはずだ」と思うものなのだ。そしてまたアイデアがたまったら、ここ一番の話を書けばいい。

 この佐々木流脚本術は、テレビドラマ界においては、瞬間視聴率が出るようになる以前の時代に通用したものかもしれません。
 しかしあらゆる創作に共通する真理が含まれている、と思います。

 健康のために食事制限をしているような人間はバカだ。運動する人間もバカです。食べたいときに食べてれば、あんまり食べたくないときも出てくる。それで自然に身体が調整するんですよ。
 そうおっしゃっていた佐々木さんが、内臓疾患で入院したのは数年後でした。 
 でもその生き方で69歳までまっとうしたのですから、やはり「佐々木流食生活」も、間違っていたとは言えないでしょう。

 『失恋論』でも引用させていただいた、『竜宮城はどこですか』の中の印象的な科白を以下に記し、追悼の意を表したいと思います。

 「人間はみんな、三日月なのかもしれない。それぞれ、相手の三日月のかがやいているほうだけを見ていて、かげになっているほうは、まったくわかんない。あたしたちの社会は三日月のよせあつめといっても、いいかもしれない」