映画の友よイチオシ映画『花火思想』とは何か!?

メルマガ『映画の友よ』
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創刊号の「新作日本映画ほぼ全批評」で、
イチオシ映画として挙げた『花火思想』。


「頭を殴られたような衝撃」を受けました。


その公開前連続トークを、現在配信中『映画の友よ』第2号から、
3号にわたり、1月25日からの映画公開に至るまで、
監督の大木萠さんと、脚本・撮影の阿佐谷隆輔さんとしています。


楽器を持つことがロックじゃない。生き方でロックするんだ――。
そんな気恥ずかしいばかりの思いを持って生きようとする青年。
行くあてのない自分をそのままのかたちで見つめるために、フト出会ったホームレスの男についていく――。


当ブログを読んで頂いている方にも、
ぜひ興味を持っていただきたいと考え、
創刊号に書いた僕のレビューを、以下に全文掲載いたします。


これを読んで何かを感じた人は、
ぜひ熱いトークに触れて下さい。


そして映画を見に来て下さい。

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日本映画ほぼ全批評
■花火思想 

狭い試写会場の席を埋めるにもまばらな人数の前で、監督だという人が立って上映前の挨拶をした。

ハリガネのような体躯で、高円寺でよく見かけるようなバンドマンにも見える二十代の女性。世慣れた風情をまとわせてはいるようには思えない。媚びた笑顔も似合いそうもない。

彼女はただまっすぐにこう言った。

「この映画を作らなければ、私は先に行けないと思いました」

そう言って、涙をにじませた。
まだこちらが映画を観る前である。
息を呑んだ我々が、拍手することも出来ないまま、監督はその場をはけた。
お約束の拍手さえ拒むなにかが、予感された。

やがて映画を観終わり、私は頭を殴られたようなショックを受けた。観る前に試写会場で見かけてダベっていた知り合いとも、終わった後は口をききたくなくなり、私は目を真っ赤にしながら、その場を逃げるように出ていった。

この映画は、「才能」がひとつのテーマになっている。そしてこの映画には、「才能」を持っている人間が一人も出て来ない。

この映画を見て、私は「才能」とは、映画にとっては「魔法」や「奇跡」に近いものなのだということを改めて認識させられた。

音楽の才能でもいい。絵を描く才能でもいい。料理人の才能でもいい。観客は、主人公の「才能」に自己を同一化させて、ナルシシズムに浸ることが出来る。

でもこの映画には才能を持っている人間は出て来ないのだから、ナルシシズムに浸ることも出来ないのである。

なんらかの理由で音楽をやめた青年が主人公である。彼が音楽を辞めた理由がわかる材料が、映画が進む中で少しずつちりばめられていく。バンドを大きくして、メジャーにするための過程で起こる、ありがちな軋轢。そう初めは感じられる。
 
いま彼は楽器を持たずにロックンロールをすると大言壮語するホームレスのおっさんにカブレている。そのおっさんに弟子入りして、自分も野宿する。生き方でロックするために。

しかしこれは本質論と具体論を取り違えていないか。単なる逃避の正当化ではないかと多くの人が思うだろう。

ここであるテーゼが囁かれる。ホームレスになるのは、やりたいことがある人間だからだ……と。

これは意表を突く指摘である。ホームレスを排除すべき者として否定的に見るか、外側から「自由人」という突き放したレッテルを貼り付けるか、社会の犠牲者として同情的に見るか……そのいずれでもないのだから。

やりたいことがあるけれど出来ない人間がホームレスになるのだと、かつて小説家を目指していたあるホームレスが、主人公の青年に言う。

この意見はすべてのホームレスにあてはまるだろうか。この男にとってはそうだというだけではないのか。

けれどもそれを聞いた、前述の自称ロックンローラーの中年ホームレスはなぜか取り乱し、元小説家に覆いかぶさり、泣きながら殴り続けるのだった。

そんな暴力にも、しかし内輪揉め的なものなだけまだ生やさしさがあった。彼らをホームレスだというだけで人間扱いせず、力で排除しようとする者たちが、さらに外側の現実として存在する。

そんならせん状のスパイラルのド真ン中で、青年はかつて捨てた筈のギターを背負い、バイクで走り出す。そこに岡林信康の『私たちの望むものは』がかかる。

岡林信康といえば日本のフォークソングの始祖。86年生まれの監督からすれば、へたすればおじいちゃんの世代だろう。


「♪ 私たちの望むものは 社会のための我々ではなく
   私たちの望むものは 我々のための社会なのだ」


はっぴいえんどの演奏をバックに、荒々しく歌う、野外ライブでの岡林の音源が響く。
時代を越えて、何かに抗おうとする強い衝動が喚起される。

しかしその衝動は、単に社会という大きなもの、強い者を敵に回すというヒロイズムをこの青年に許しはしない。

ついに伏せられていたすべてが明らかにされ、ここで我々観客は、驚くべきものを目の当りにすることになる。
 
この映画で描かれたものを、私はまだ冷静に解釈し直すことが出来ていない。
ただ、傷跡そのものとして私の中に宿った。
それがなんなのか、私はこのメルマガを続けていく中で考えていくのだろう。

いきなりすごい作品と出会ってしまった。
この作品と出会っただけでこのメルマガを始めた意義があった。
……って、まだ創刊号ですが。

ぜひ、一人でも多くの人が、劇場でこの衝撃に立ち合ってほしいと思う。
 
【初期衝動度】
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【ぶんなぐられ度】
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【トラウマ度】
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ナルシシズム度】
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『花火思想』
1/25〜
渋谷ユーロスペース http://www.eurospace.co.jp/
レイトショー 連日21:00〜

公式サイトhttp://hanabishiso.jimdo.com/


メルマガ『映画の友よ』第2号まで配信中。
http://yakan-hiko.com/risaku.html
第2号では映画の友よイチオシ映画『花火思想』公開前連続トーク第一回掲載。
(第二回掲載の第3号は正月3日配信予定)