『花と蛇ZERO』桜木梨奈さん登場!

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今回は巻頭で、『花と蛇ZERO』主演の桜木梨奈さんにお話を伺っています。

花と蛇ZERO』は、5月17日に全国公開されます。

第7号の「日本映画ほぼ全批評」で『花と蛇ZERO』について書いた文章を、以下に全文掲載いたします。

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日本映画ほぼ全批評
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花と蛇ZERO

団鬼六原作となっているが、オリジナルストーリーと言っていい。「一期は夢よ、ただ狂え」という鬼六先生の辞世の句にあらわれた精神を活かすため、さまざまなエッセンスがちりばめられた映画と言えるかもしれない。

ヒロインが3人登場するが、ただ頭数だけ揃えて見せ場を作っているのではない。誰かがメインで誰かが縛られ要員というような差もない。

一人めは団先生の原作によく登場するような、オーソドックスな「家族のために犠牲になり、借金の罠に落ちていく人妻」であり、『花と蛇』ヒロインの伝統的な名前である「静子」と名付けられている。彼女の背景には、ドロドロとした血と因縁のドラマがあることが次第に明らかにされていく。

二人めは、女性を罠にかけてネット上で見世物にするサイト「バビロン」を営む闇組織を追う女刑事(警視庁生活安全部の警部という設定)であり、仲間とともに害虫駆除に偽装したトラックに潜伏し、いきなり現場に踏み込んで撃ちまくる。クライムアクションの世界がこのSM映画に導入されているかのように描かれる、いわばジャンルの混合だ。事件を追う彼女・美咲が謎の声に導かれるようにして迷宮に入り込んでいく展開になる。

そして最後の一人は、暇と欲求不満を持てあましている専業主婦・瑠璃であり、彼女はネットで曝されている「静子夫人」のファンになり、日常の行動が次第に淫らなものになっていき、やがてはバビロンの儀式に出かけて、自ら緊縛を希望しさえする。彼女は、SMという世界の仮構性を浮かび上がらせるメタフィクション的存在として機能している。

いわば3人の女性は、存在自体がこの一つの映画を「SMもの」「事件もの」「メタフィクション」の側から支えている<生ける構造>であり、ゆえに三本の柱として完全に対等。しかもそれらが一つのプロットの中で緊密に結び合っている。脚本の港岳彦による、いま最も脂が乗っている時期の仕事であることは間違いないだろう。

SMは密室ドラマとして描くことも出来るが、それを一つのショーとして、クライマックスを盛りたてることに向いているジャンルでもある。SとMという極端な割り振りによる演劇性も強い。本作では、3人のヒロインが一堂に会して縛られるというクライマックスに向かって進行し、さらにはそれがネットで閲覧する人々の匿名の欲望にさらされていることで、観客一人一人もこの「一期の夢」に参加させる。

『相棒シリーズ XDAY』や『探偵はBARにいる』等の橋本一監督を支えるチームは、アクション場面も、クライマックスの儀式性の強い場面も丁寧に成り立たせ、ケレンを利かせているため、安っぽくならない。

その一方、美咲が携帯電話の向こうの謎の声の脅迫で、トイレやゲームセンターの中で強制自慰をさせられるくだりなどには、もうちょっとエロス的な情感が欲しかったところだが。

しかし全体的には、女優のたたずまいや表情が、役柄やシチュエーションともピッタリ合っている。
勇敢な捜査官が罠にはめられ堕ちていきながらも、それを逆手に取って真相に近づこうとする。その過程での屈辱に耐える表情が美咲役の天乃舞衣子にピッタリ合っている。

対して、屈辱と言うよりはもはや諦念の海に沈み、すべてを自らの罪として十字架を背負おうとする悲しみがより美しさに磨きをかける静子役の濱田のり子もまたしかりだ。

だがなんといっても、ネットにハマる主婦から本当の緊縛プレイにまで発展してしまう瑠璃を演じる桜木梨奈が今回印象に残った。

佐藤寿保監督『華魂』では、華魂という架空の花を付けることで、現実に潜伏する狂気をあらわにするヒロインを演じていたが、彼女自身は静謐な存在だった。この作品では一転して、観客の目線代表のような位置から出発しながら、実はもっとも過激に突っ走ってしまうさまを「肉体を持ったバーチャル」として体現している。

それを嬉々としたメガネ女子ぶりで演じ、狂気の官能をひとつひとつ味わうような<ときめきSM>ぶりは、この映画に破壊的なカタルシスをもたらしている。

彼女が憧れの静子にやっと会えて、感激の声とともに鞭打つシーンは、この映画のもっとも素晴らしい瞬間だと、私は思う。映画におけるフェティッシュは、映し出されることが先なのか、感覚が先なのか、そんな順序さえ逆転させてしまうものがあるが、本作はまさにそれを合わせ鏡的に描いている。


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この映画を見て、桜木梨奈さん演じるキャラクターと出会った時の興奮が伝わってくる文章だと、自分でも思います。

そして現在配信されている最新号では、桜木梨奈さんご本人にお話を伺うことが出来ました!

桜木さんはいったどんな人なのか、今回から数回にわたってお話を伺うロングインタビュー、よろしければご一読ください!


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今週の目次
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[00]ごあいさつ
[01] ザ・女優魂 『花と蛇ZERO』主演・桜木梨奈ロングインタビュー!
[02]切通理作の「見てンぞ!映画」 南木顕生逝去に思う、作り手による映画批評の視座
[03]『映画はどこにある』寺岡裕治の特別寄稿 蟹江敬三を追悼する
[04]連載・時代劇を支えてきた男達〜映画『太秦ライムライト』の現場から 第二回 “僕たちの世代はみんな福本清三夢工場・撮影所を支えた俳優達(1) 筆・吉川まいこ
[05] 自分の首を絞める「映画術」を書いた理由〜『抱きしめたい』『昼も夜も』監督・塩田明彦に聞くPART3
[06] 日本映画ほぼ全批評
・私の男
・ライブ
・白ゆき姫殺人事件
・どうしても触れたくない
・あるひもりのなか
・マッチ売りの殺人少女
・東京戯曲
・紅い発情 魔性の香り
[07]連載寄稿 カセット館長の映画レビュー 人は殺意に染まった時、真に解放される〜白石晃士監督作品『殺人ワークショップ』 筆・後藤健児
[08] 連載寄稿 世界を知るための映画 幕を引く〜フランス映画で見つけた人生の終わり 筆・山口あんな
[09] 足立正生連載インタビュー 『風景の死滅』は風景の突破である 第3回 学生運動家に若松映画がモテたなんてことはない
・『新宿マッド』と第三世界 
・『性遊戯』は若者同士がぶつかるカオス
・総括とともに決起する
・批判をするための上映だった
寺山修司の助監督志願
・「出口出」としてのスタート
[10] 連載寄稿 女子ときどきピンク映画 筆・百地優子(脚本家) 第10回 そのルールは何のため?
[11]特撮黙示録1954-2014 『モスラ対ゴジラ』(後編)
[12]あとがき


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そしてよかったら、御感想教えて下されば幸いです。
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