「映画の友よ」イベント第一回レポ

PaPeRo2015-06-22

先週金曜日6月19日、メルマガ「映画の友よ」イベント第一回の日、会場「よるのひるね」に着いた途端、2名の方からお店にキャンセルの電話頂き、「こりゃあクリスマスイブに三角キャップ被ったまま孤独に立ち尽くす星飛雄馬状態かああ」と覚悟しましたが、無事満員御礼。

雨の中、おいでくださった皆さん、ありがとうございました!

私の基調講演テーマとして、「高畑勲は『母をたずねて三千里』の51頁分しかない原作(平凡社ライブラリー版)をいかにして30分×52本に膨らましたか」を<メタフィクション><共感より理性><不可視のつながり>といった視点から語りました。


母をたずねて三千里』を再検討する事で、高畑勲は登場人物に対して容赦ないドラマを描いていながら、それが過酷だと感じる視聴者に対して怒るのはなぜなのか・・・という事が見えてきた気がします。

子どもの側の感情や正論が汚れた大人社会を浄化する・・・というような、都合のいい物語を避け、同時に、子どもへの教訓めいたものが表に出るのも避けながら、どんなことでも現実からのしっぺ返しがあるというかたちで、実は生きていくために必要な事を伝えているのが高畑作品なのだなと今回の視聴で改めて感じました

来場された方で、今回のイベントを機に『母をたずねて三千里』全52本見直したという人とも話したのですが、大人になってわかる人生の味わいもこのシリーズの魅力だったんだとも思います。

特に、主人公マルコが旅立つ心理的な契機を与える人形劇団一座の座長・ペッピーノの持つ、かなしみやおかしみは中年となった今は響きます。子どもの時は得体のしれない<大人>でしたが。

シリーズの後半、「全部わかってるさ」とペッピーノがある男の嘘や弱さを何も咎めず包含しようと、大人の態度で接してみせた次の瞬間、その男がマルコを欺いてより過酷な運命に旅立たせたばかりと知り、思わず彼を殴ってしまいます。初めて直接マルコへの思いを見せたペッピ−ノはここで主舞台から退場。この突き放し方と、客観視した中で生まれる人物の感情表現は圧巻というしかありません。

日本アニメーションの「カルピスこども劇場」での前作『フランダースの犬』から、よい子すぎる主人公と悲劇に帰着する涙のカタルシスを見取った高畑勲は、自作『母をたずねて三千里』で、大人と子どもが並び立てない中でどう出会うのか、より等身大に近づけて描きました。

その高畑が次に取り組む『赤毛のアン』考察が次回映画の友よイベントのテーマとなります。

ゲストの大木萠監督が『かぐや姫の物語』を見て、月から迎えに来るくだりは、実は死の世界への旅立ちであり、それはたとえば戦争で死んだ者への高畑勲の思いがあるのではと指摘。意表を突かれるとともに、『平成狸合戦ぽんぽこ』に舟で旅立つ夜の場面があるのを思い出しました。

その大木萠監督と脚本家・カメラマンの阿佐谷隆輔さんが、長編デビュー作『花火思想』に続く、今後の展開の可能性について、会場の方だけに話してくれました。実は僕も新作への期待と共に、彼らのスタート地点『花火思想』と出会い直す機会を作っていきたいと思ってます。大きな動きが秋にある予定。また告知します。

後半駆けつけてくださった斎藤隆文さん。メルマガで素敵なエッセイを連載頂いてますが、リアルで会うのは半年ぶり。俳優オーラが増していて、キレッキレのコメント連発で「おおッ」と。打ち上げで新作の話題をする大木萠監督に「呼ばれなくても出ます」と、ハートを掴みにくる笑顔は流石。

連載執筆陣によるトークも好評でした。

『眼福女子の俳優論』連載の小佳透子さんによるミア・ワシコウスカ論。ミアの魅力をあらわす<影のある透明感>という言葉がしっくりきました。7月18日公開『奇跡の2000マイル』ではミアの新たなステージが!
 http://www.kisekino2000mile.com/

『世界を知るための映画』を連載下さっている山口あんなさんのトークコーナーでは、普段の原稿ではなかなか触れられない、ドラマの本筋だけでないシンガポールの事情(ペットの取扱いや公開体罰等)を映画『イロイロ』を通して話され、とても興味深かったです。

そして、トリを務めた後藤健児さんが、自身の経営するオンラインVHSレンタル「カセット館」で取り扱う映画からオススメを紹介。その絶妙なトークに場内一同どよめきました。特に『ブルース・ウィリスの逆襲』の話題は抱腹絶倒!    
 http://www.cassette-kan.com

「映画の友よ」イベント、これからも、阿佐ヶ谷「よるのひるね」で開催させて頂ければと思っています。
 http://members.jcom.home.ne.jp/yoruhiru/
 
 第二回は8月を予定しています。ぜひお越しくだされば幸いです。
 http://yakan-hiko.com/risaku.html