ヴァーチャル関東大震災

  小学校の災害避難訓練では、ある教室の窓から下に避難用のコースターが設置され、そのクラスの子どもたちが滑って校庭に降りてくる。私はこれがうらやましくてしょうがなかったが、私が所属したクラスはついに設置される教室に選ばれることはなかった。
  いまでも残念な思いはよみがえるほどだ。

  さて、映像での大震災の疑似体験は『日本沈没』よりも『宇宙猿人ゴリ』での怪獣モグネチュードンによって引き起こされる関東大震災の方が自分にとっては大きい。
  地震が始まるまでの秒読みをドキュメント風に描き、平和な日常にひしひしと忍び寄る大破壊、大平透(スーパーマンの声の人)演じる公害Gメン局長がマンション(倒壊後はお化けマンションで撮影)に残した我が子と離れ離れになるサスペンス。そしてミニチュア特撮も豪勢な印象があった。
  この日放映された後編では、モグネチュードンを倒したスペクトルマンの母星ネビュラの計らいによって破壊された街は修復し、人々から地震の記憶もモグネチュードンが現れた記憶も消される。
  スペクトルマンに変身していた蒲生譲二は歩行者天国で人々にマイクを突きつけ「地震が起きたの覚えてますか」「モグネチュードンって知ってますか」と訊く。人びとはもちろん知らないというそぶりをみせる。これを実際の街頭で撮影しているのだ。マイクを突きつけ人々に空しく質問を続ける譲二の姿にエンディングのスタッフ、キャスト表記が流れて終わる。いつものED(「宇宙猿人ゴリなのだ」)は流れない。

  いまでこそ、最終回などイレギュラーな展開でいつものEDを流さないという方法はよく使われるが、当時はこうしたフォーマット崩しはヒーロー番組においてきわめて稀であった。私は長い間、この終わり方は私の記憶のねつ造で、実際にはなかったのではないかと思ったことさえある。のちに再放送で、やはりあったのだと確認はしたが。

  ドラマであることをとび越え、現実の人々にマイクを突き付けるこの場面は、いつ大地震が起こるともわからない東京の街のドキュメントにもなっており、そのことは幼い私にも刻み込まれたのであった。