ディック原作のダメ映画と真っ当なピンク映画

  シネセゾン渋谷に『スキャナー・ダークリー』。
   これはひどい。さすがに眠くなった。
   押井守の作品がいかによく出来ていたか思い知らされる。
    劇場に置いてあったフリーペーパーでこの映画について寄稿していた大学講師も、ディックとドラッグについての解説にスペースのほとんどを費やし、映画そのものについては最後の数行でしかも判断は観客に預けている。そりゃ、こう書くしかないだろうなと同情する。


   新宿国際で福原彰氏の監督デビュー作『うずく人妻たち 連続不倫』。
   不倫が背徳ゆえ盛り上がり、やがて断罪される。「芸術性」に溺れるのでもなく、カラミだけで気持ちが追えない見世物ショーでもない、真正面からのピンク映画で、見ていて元気になってきた。 


   スポーツ新聞で『マグロ』前編の視聴率がそれほど高くなかったと出ていた。
   前に全周展示の水族館で見たことがあるが、マグロは常に泳ぎ続けていないと死んでしまう魚で、しかも巨体。海の戦車のような存在である。渡哲也とマグロとの対決はあの『西部警察』第一話での戦車との対決の海バージョンといっていいものだ。
   だが一般には、切り分けられたマグロはどこのスーパーでも見かける地味な魚だし、セックスにおける「マグロ男」のように、むしろ非能動的で鈍重な印象がある。
   そのイメージ転換が出来にくかったのではないか。

   しかし石原プロ新年会で渡哲也が言ったという「内容はよかったと思う」という挨拶は、さすがだ。
   数字優先の社会でそんな身も蓋もない正論を真正面から言って済ませてしまう。やはり大スターはただものではない。大スターにてらいや韜晦は必要ない。
   ドラマの中の松坂慶子のせりふにもあったように「人生は単純」それでいいと存在で伝えるのがスターなのだ。