滝本智行監督の既作を


   『イキガミ』が面白かったので滝本智行監督の『樹の海』『犯人に告ぐ』のDVD見た。
   『樹の海』は死を前にした人間たちのドラマの原点だった。
    どちらも、ちょっとギョッとするようなところからはじまりながら、人間を描くときの端正なたたずまいが印象に残る。
   「遠い世界に」の歌で世代の違う人々(リアルタイムで聞いた世代と、教科書で知った世代)のドラマがつながるのは、『光の雨』の脚本/プロデューサーでもあった青島武さんの思いもあるのだろうか。
   それがワールドカップの「翼をください」からの逆想で出てくるのもうまいと思った。富士山を表から見るか裏から見るかというモチーフとも重なり合っているような気もする。
   「遠い世界に」がヒットしたのは万博の前の年で「日本中が連帯感でつながる」夢を持っていた時代。それはもう帰らないのか。
   でもほとんどつながりのない女性のことを「ちゃんとおぼえていてあげたいんです」という津田寛治にはグッときた。
   井川遙は『TOKYO SORA』もそうだがこういう役が似合っている。駅の売店での日常のたたずまいがとてもいい。

   『犯人に告ぐ』は、トヨエツが刺されたときに相手を許すところとか、奥さんの役とか、石橋凌とか、「優作濃度」がけっこう強い。それが『イキガミ』につながっていく部分もあったのだろうか。
   警察内部に敵がいるというくだりは、ソイツのたかだか前の彼女をもう一回抱きたいという執着ていどのことからはじまっているというセコさが、逆に怖い。そんなことで罪まで着せられたらたまらないが、おうおうにして世の中ってこのていどのことで運命が左右されてしまうのかもしれない。
   
   『樹の海』で飲み屋の愛想の悪い姉ちゃんに怒鳴る塩見三省は『北の国から』を思い出したが、このお姉さんがまたイメージ的には後半の井川遙のたたずまいとリンクしているように感じられ、すれちがう人にもドラマありと、この世界に生きるのを肯定したくなる。
   『イキガミ』の柄本拓も『17歳の風景』のイメージの延長上にあり、こうしたバトン的なつながりは見ていてうれしい。意図したかどうかはともかく。