「ポニョとハヤオを語りたおす!」 レポその2 内側にあるもの

   
  (4日のレポの続きです)
  未来少年コナンが自作の舟で海を渡ってきたように、椰子の実の流れる海流に沿って我々日本人がやってきたと考える柳田國男。柳田が日本という国を外から見たように、宮崎駿も人間というものを外から見る契機を持ちたかったのかも知れません。
 それが「ヒューマニズムのあとにくるもの」を求める気持ちにつながっているのかもしれない。

 しかし「ヒューマニズムのあとにくるもの」が、また別の形での「ヒューマニズム」なのだとしたら、それは結局、いったん外側に出ながらも人間を見つめ直す、出会い直すということになるのでしょうか。

 そう考えれば、宮崎作品の魅力とは、答えの出ない問いかけでありながら、我々の中に既にあるものの再発見ではないかと考えるのです。
 映画としてのシナリオ作法を外していても、なぜ心に入ってくるのか。

 この主人公が、ヒロインが、見ている我々の期待を担って最後まで生き切ってくれるという、絶大な信頼感ゆえではないでしょうか。
 それが氷川竜介さんのいう「幸せビーム」だと思うのです。

 千尋が、豚になった両親を助けるために働いているはずなのに、ハクとの恋愛に話の方向が行ってしまうのは、一見、物語の軸が一つになっていないように見えます。

 その点に関して、竹熊健太郎さんは、こう言いました。両親が豚になることで千尋は彼らの欲望むき出しで醜悪な姿を見てしまった。そこには嫌悪がある。しかし独りぼっちになってしまった彼女にとって両親以外に頼れる存在はいない。そこへやってきたのがハクであり、ハクは時折別人格のような冷たい面を見せるものの、彼女にとって唯一頼れる存在であり、心を許せる存在。そのハクが、実は昔自分が出会っていた存在であるという真実の姿を発見することは、心情的には豚になった両親を元に戻すということと実は同じ軸にあるのだと。
 つまり、理ではなく情でつながっていると。

 それを聞いて、僕は『もののけ姫』で村の少女が旅立つアシタカに村の少女が黒曜石の小刀を渡す場面は後半の伏線にはなっていないけれども、しかし宮崎駿は村の少女とサンの声を同じ役者に演じさせ、心情的にはアシタカにとっての二人の女性のありようを重ね合わせていたことを思い出しました。

 私は『宮崎駿の<世界>』文庫版加筆の『ハウル』論最後で、以下のように書きました。

<初期心的現象に詳しい村瀬学の『宮崎駿の「深み」へ』や、宗教学への関心を促す青井汎『宮崎アニメの暗号』、正木晃『はじめての宗教学 「風の谷のナウシカ」を読み解く』といった、人間の深層心理の奥にあるものへの探求のスプリングボードとして宮崎アニメを扱った著作が複数存在するのも、むべなるかなといえる。そこで描かれている現象に対し、トランスパーソナルな見地から言葉や共有概念を与える傾向はもはやひとつのジャンルとなっているのかもしれない。
 しかし、宮崎がその暗がりの奥をつかみ出して示そうとしているものは、そんなに難しくはないように思える時も、筆者にはあるのだ。
千尋ハウルも、忘れていた過去の記憶が示していたのは、いま目の前にいるハクやソフィーとの「出会い」だった。
 そしてローマの湖を見て「俺のポケットには大きすぎらあ」と肩をすくめ、目の前の少女クラリスの「心」以外には何も盗らずに去っていったルパン三世
 重要なのは宝物よりも、目の前の人間と出会ったということ、それ自体ではないだろうか。それは当然、日常の再発見にもつながる。何かを見て、動きを感じることがそのまま自分の心の動きでもあった時代。子どもの頃には誰でも感じた世界への無償の愛情を思い出させることによって、自分のいま生きている現実のはじまりに観客をいざなうのだ。
 その精神は、次なる長編『崖の上のポニョ』にてよりストレートに描かれることになる。>

 この世界を何度でも体験し直し、見つめ直す契機。自分にとってその一つに、昨日のイベントはなりました。
 改めて、この機会を与えてくださった方々、竹熊さん、氷川さん、おいでくださった皆さんに感謝します。
 
 トークでも言いましたが、「決定版」というタイトルは翻し、これからも宮崎駿の新作が出るたびに語り続けていきたいと思います!

 
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  『宮崎駿の<世界> 増補決定版』(ちくま文庫)刊行記念

  「アニメ昼話 ポニョとハヤオを語りたおす!」

     宮崎駿は<神>なのか? あるいは破綻した作り手か? 
     全作品に隠されたものをさぐる。

【出演】切通理作(著者)
    竹熊健太郎サルでも描けるまんが教室
    氷川竜介 (BSアニメ夜話・アニメマエストロ)

   11月3日(月・祝)

   OPEN 12:00 / START 13:00  前売¥1000/当日¥1500(共に飲食代別)

   会場 ロフトプラスワン (新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 03-3205-6864) http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/