めでたれや

   昨日渋東シネタワーの喫茶店にて取材でお会いした方は滝田洋二郎さんと同じ釜の飯を食った人で、会うや否や「滝田さんがアカデミー賞獲ったよ!」と教えてくれた。
 「自分のことのように嬉しい」とその人は言った。
 そのあまりにも素直な言葉に、こちらにまで感動が伝染してしまった。
 ロードショーで見たときはそんなに感銘を受けたということもない『おくりびと』だったが、なにか日本人として誇らしい気持ちになってきたから我ながらミーハーだ。
 
 自分はいい映画を観ると帰りの電車の中でもそのことをぼおっと考えている方だが、『おくりびと』はロードショーの帰りの電車の中でもう他の事を考えていた。
 いま、そのときの記憶をたどり直してみると、ラストの石と父親のエピソードが浅田次郎みたいだなと思ったのを思い出した。で、なんとなくそれまで引き込まれていた時間がどっか行ってしまったゆえのような気がする。浅田次郎は理に落ちすぎてかえって感動を削ぐと前から思っている。
 でも、最後で多少気がそがれたとはいえ、浅田次郎を読んだときほど萎え萎えの感じではもちろんない。

 広末の妻に理解されなくても納棺師の仕事にのめりこんでいくモッくんの気持ちには大いに共感できたし、ところどころのコメディ的な味付けは好きだった。
 自分の属していたオーケストラの解散を告げられたときのモッくんの、大袈裟に口を開けた「えッ」っていう表情。それでシーン代わりになるあの感覚って、滝田さんの師匠の一人である稲尾実(深町章)監督譲りのセンスではないだろうか。
 ああいう、全体としては真面目な映画なんだけど、どこか軽味というか、おおらかな<弾み>の感覚のある映画が評価されるのはとてもいいことではないだろうか。