一年前の今日


  昨年の今日は、原田昌樹監督とのお別れの日だった。

  原田昌樹氏は、『ウルトラマンティガ』(97)以降数シリーズの平成円谷プロ作品において、一方で繊細なファンタジー色の強い作風、一方で骨太な男っぽい演出で視聴者を魅了した監督。大人向けの長編劇場用映画では、半分現実で半分空想的な旅情ロマン『旅の贈りもの 0:00発』(06)で知られる。

 また藤竜也主演のドラマ『裏刑事』(92)で監督デビューし、『凶獣の牙』(95)『香港黒社会 喧嘩組』(99)など、主として九○年代に数々のVシネマでアクション作品を監督している。

 遺作は、最高裁が自ら製作し裁判員制度を扱った『審理』(08)。地下鉄で起きたある殺人事件を多角的に見つめる現代版羅生門ともいえる内容(現在、図書館など公共施設で鑑賞、貸し出し可能)。

 この遺作でも「事件は裁いても人は裁かない」をモットーに演出した原田氏は、勧善懲悪の図式に収まらない、人間の持つせつなさや矛盾した心情を、どこか突き放しながらも温かく見つめてきた。

 大人向けドラマの犯罪者も、子ども向けドラマの怪獣も、単なる正義側にとっての「敵」ではなかった。

 この日記でも何度か書いてきたように、いま原田監督の生前の言葉を中心に、関係者の皆さんからの聞き取りを併せ編んだ書籍を作る作業をしている。

 連絡が途絶えたまま昨年の今日、旅立たれてしまったので「まだ連絡が取れるはずなのに」という感覚のままだ。テープ起こしや聞き取り作業をさせていただいていても、わからないところはすぐ確認できるような気がして、そのつどハッとさせられる。

 昨日はやはり昨年旅立たれた、初代ウルトラマンから特撮監督をされ、平成作品でも監修的役割だった高野宏一監督を「送る会」があった。
 僕は高野監督とは直接は一度もお会いしたことはない。ご案内状を頂いたときは「自分が行っていいのかな」と思ったが、子どものときから魅了させられた作品群そのものはもちろん、初期ウルトラから始まる、大きな人の和を作ってこられたことに対して、やはり霊前にごあいさつをすべきではないかと思った。その「場」の延長上に、僕が原田監督のことで伺っても多くの人が快くお話してくださる空気もあったのだと思うから。
 もちろん、ウルトラマンや円谷作品が原田監督のすべてではない。でも、原田監督が、結果として旅立たれる前の日に、会っておきたかったのは、円谷プロでともに働いた人たちだったから。
 
 挨拶に立った熊谷健氏が「あなたのおかげでみんながこうして又会えるんです。高野さ〜ん! ありがとう」と大声でメッセージを送っていた。
 
 今作業させていただいている原田監督の本も、人々の「場」が浮かび上がり、テレビ画面やスクリーンの裏から熱気が立ち上ってくる本に出来たらと思います。というか、その空気を損なわないよう、出来るだけ努力したいと思います。