『小さいおうち』には『永遠の0』にはない<時代の空気>がある

 メルマガ「映画の友よ」第4号、配信されてます。
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 明日、1月23日に『寅さんのことば』という本が、東京新聞社中日新聞社から出されます。

 著者の佐藤利明さんとの、第4号巻頭対談 「山田洋次監督『小さいおうち』に見る<家族><時代>そして<戦争>」に対して、昨日、こういう感想をメールで頂きました。

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『小さいおうち』についての対談、すごく面白かったです!戦争映画なんて、いかに派手にドンパチするか、泣かせるかのどちらかで、戦争を体験した人が身近にもういないので、まるで自分に関係ないという気持ちが強くて、あまり観たいと思わない映画のジャンルなのですが、そこではなく、戦前の空気感を描いているという点がすごく気になりました。公開したら、劇場に行きます!
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 25日から全国松竹系劇場で公開される山田洋次監督作品『小さいおうち』は、昭和39年生まれの作家・中島京子直木賞を受賞したベストセラーの映画化。昭和10年代の日本を舞台に、六十年前の戦前にも、東京郊外には、中流家庭のそれなりにモダンな暮らしがあったということを、赤い三角屋根の下で働く女中さんの側から見つめるという内容。

 女中さんがいる中流家庭は、いまやほとんど存在しませんが、「女中さん」は、山田洋次監督にとっては重要なキーワードでもあります。

 今回は下の世代が書いた小説を基本忠実に映像化しながら、昭和6年生まれである山田洋次監督が知っている当時の日本人のたたずまいを投影することで、登場人物が<生きた人間>として立ち上がります。

 今回の対談で佐藤さんは、原作にはないディテールに注目することで、舞台となる一家に山田洋次監督自身から聞いた少年時代の心象風景や空気感、親との関係や家族環境を重ね合わせて語ります。

 佐藤さんは、映画の中で言及されているSPレコードの音源を用意して、山田監督が出たラジオ番組の本番の時に流して、監督を喜ばせたといいます。

「山田監督が、居心地良かった少年時代……それは戦後は、戦争ってものを振り返る時に、それすら全部否定しなければいけなくて、その居心地良さを否定しながらみんな生きてきたわけじゃないですか? でもホントは、南京大陥落の時に三越でバーゲンやってたんだっていう。こういうことが情報として、ちゃんと出てくる映画は初めてだと思います」(佐藤さんの発言より)

主人公の元女中・タキさん(倍賞千恵子)がそのことを自叙伝に書くと、現代の、孫の世代である大学生の妻夫木聡が「おばあちゃん、嘘書いちゃダメだよ。戦前はもっと暗い時代だったはずでしょ」と言います。

 この映画を見て、僕は、たとえば『永遠の0』とは正反対の映画だと思いました。
『永遠の0』は、戦後的な価値観の人間がタイムスリップしたかのような主人公を岡田准一が演じますが、彼以外の日本人は全部価値観が一緒で、死に急いでいるような人たちに描かれています。あれはまさに『小さいおうち』で妻夫木聡が言う、「あの頃の日本人はそうだったはずだ」っていう思い込みそのものではないかと。

 佐藤さんはそうした点に、82歳の山田監督が伝えたいことを見ます。
「映画はストーリーを伝えるだけでなく、登場人物が生きている時代や、暮らしぶりを通して、現代の観客が、何を感じるか? ということもありますよね。戦時下の普通の暮らしを描いて、観客に伝えていくというのは、戦場での戦いを描くよりも、もっと難しいことだと思います」

 メルマガ『映画の友よ』では今回から、佐藤さんと数回にわたって、佐藤さんの本の話題、寅さんの話題、山田洋次監督の話題をさせていただければと思います。

 みなさん、ぜひご一読・ご感想頂ければ幸いです。

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■映画の友よ04

[01] 山田洋次監督『小さいおうち』(1月25日公開開始)に見る<家族><時代>そして<戦争>
 佐藤利明(娯楽映画研究、文化放送『みんなの寅さん』司会)×切通理作 

[02] 追悼 映画監督・渡辺護 「また<食えない作品>をやろう」
採録 渡辺護インタビュー 
・遺作を引き継ぐ井川耕一郎監督の証言
・「口を開けば映画のことばかり」 寄稿・樫原辰郎(映画監督)

[03] 創刊記念インタビュー 
『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポッドマンの平成史』『空から日本を見てみようテレビ東京ディレクター・高橋弘樹が映画を語る その3(最終回) 「『ありのままを描く』なんてウソだ!」そして「『耳をすませば』と新海誠……セカイ系の末路」

[04] 日本映画ほぼ全批評
・獣電戦隊キョウリュウジャーVSゴーバスターズ 恐竜大決戦! さらば永遠の友よ
・赤×ピンク
・増殖細胞ヒミコ
・義父の愛撫 くい込む舌先
・ゼウスの法廷

[05]映画の友よイチオシ映画『花火思想』公開(1月25日)前連続トーク 第3回(最終回)
「もっと俺を愛してくれよ!」〜<男の子の世界>での女子の役割とは?
ゲスト・大木萠(監督)、阿佐谷隆輔(脚本・撮影)

[06]新連載・カセット館長の映画レビュー  寄稿・後藤健児
70年代ニヒリズムゼロ年代以降を結ぶもの 『デビルマン』から『魔法少女まどか☆マギカ』へ受け継がれる、<破壊と再生><愛と友情の闘争>

[07]連載寄稿 眼福女子の俳優論  筆・丸茂透子 髪型イリュージョン ジェシー・アイゼンバーグ 映画『グランド・イリュージョン』より

[08]連載寄稿 女子ときどきピンク映画 筆・百地優子(脚本家) 第4回「時代劇らしくない」

[09]連載・セクシー・ダイナマイト
 第3回 「何かにすがるのは、下品な生き方だと思うんです」 AV女優のまま芸名から実名へ 宮村恋さん改め、黒木歩さんに聞く

[10]いまおかしんじ「自分にないものが試されている」 佐藤寿保監督作品『華魂』(公開中)脚本インタビュー 

[11]連載・特撮黙示録1954−2014 第3回 円谷英二の「風立ちぬ」たる『ニッポン・ヒコーキ野郎』。そして金城哲夫の『翼あれば』

[12] 編集後記

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