「好きな人が出来ました。別れてください」
女優のほたるさんが自ら監督した映画『キスして。』が、大阪シアターセブンで公開中です。
メルマガ『映画の友よ』では創刊号でほたるさんにロングインタビューしています。
http://yakan-hiko.com/risaku.html
ほたるさんは以前「葉月螢」という芸名でした。劇団水族館劇場に所属し、舞台に上がるばかりではなく、美術を担当。
もともと劇団には、美術をやりたくて入ったと聞いたことがあります。そのせいか、私のほたるさんに対する印象は、まるで画学生のように、物静かで、自分の世界を持っている女性というもの。
サトウトシキ監督や瀬々敬久監督、小林政広監督の作品など、ピンク映画にも数多く出演。どんな激しいシチュエイションも、一見おっとりした態度で切り抜けてしまうようなキャラクター。『幽閉者(テロリスト)』や『京極真珠』などインディーズ、アート系作品にも出演、知る人ぞ知る存在でした。
いつしか苗字から「葉月」が取れ、名前がひらがなになって「ほたる」に。離婚がその契機だという噂も流れてきました。
ほたるさんは今回、その経緯の中での自分の感情を映画にしています。女優として撮られてきた彼女が、自らのドラマを自作自演で演じるのです。
今回の映画について「突発的に始めたんです」と言うほたるさん。
「その時ちょうどピンク映画もあまり出てなかったんですよね。これまでピンクだと、私がちょうど恋愛したりとか結婚したりとかする時に、わりとそういう役が来たり。新妻の役とか(笑)。けっこうタイムリーに当ってたりとかしてたんで、けっこう(その時の自分が)色々写ってるんだけど、今回こんなデカイことあったのに、(表現出来る媒体が)なんにもないんだなと思って。せっかくだから(自分で映画にして)撮っておこうかなっていうのがあって」
ほたるさんはいつか映画に使えないかと実体験をメモしていたといいます。
相手から言われたことの中に、ある本質的な事を見出して、それが映画の中のシチュエイションにもつながっています。
それはオヤジたちが集まる酒場に、ほたるさんが一人でいるシーン。ここはとても印象に残ります。
そして、森の中で、ほたるさんに小さな子どもが駆け寄ってくる幻想的ともいえる場面は『キスして。』という題名にもつながっていきます。
ほたるさんにとっての<キス>のイメージを訊いてみました。
「なんかこう、純粋な気持ちみたいなイメージですよね。ピンク映画出てる時とはまた違う感じで(キスを)使いたいなと思って」
ほたるさんは体験の「実録」ではなく、その時の「感情」を、それも極力台詞ではなく、場面として展開していこうとしています。
私はこの映画を見て、最初、夏石鈴子の『バイブを買いに』という小説を思いだしました。堕胎を選ぶ女性が主人公のこの小説は、生命の継承ではなく、恋という体験そのもので生まれ直す女性の、内側に広がっている宇宙を描いた小説です。
『キスして。』も、ほたるさんの体験の「実録」ではなく、その時の「感情」が描かれています。
しかも『キスして。』の場合は、その感情が映画のものとして展開されています。
タルコフスキーの『惑星ソラリス』のごとく、日常的な舞台がイリュージョンの世界の中の道具立てになっているような、不思議な感触の中で、一人のヒロインの変化が見つめられます。
映画女優が、自らをモデルに、監督として撮ったこの映画。まだ見てない人も、見た後にもっと作品の成立事情について知りたいと思った人も、創刊号のバックナンバーを参照してくださると幸いです!
『キスして。』
監督・脚本 ほたる
撮影・照明 勝嶋啓太
録音小林徹哉
公開中
大阪シアターセブンhttp://eiga.com/theater/27/270108/9015/
公式サイトhttp://kisusite.com/
■メルマガ『映画の友よ』創刊号
http://yakan-hiko.com/risaku.html
「キス」で終わり、キスで始まる物語――インタビュー ほたるさん(女優)