マトモなやつなんか世の中に一人もいないはず

 
 時代を狂わす毒の花。佐藤寿保監督作品『華魂』が、新宿ケイズシネマで公開中です。

 メルマガ『映画の友よ』では創刊号から四号にわたって、『華魂』を応援しています。
 http://yakan-hiko.com/risaku.html

 かつて自分の世界を「アインシュタイン相対性理論が崩壊した世界」と形容した佐藤寿保監督。 

いまでは成人映画館でもとても上映できないような、血と暴力に満ちたピンク映画を50本近く手掛けた後、『乱歩地獄』『名前のない女たち』と独特な世界を描き出してきました。
 
「日本のスプラッター映画の草分け的存在」と言われることもありますが、本人はそれを嫌っています。ある上映会で、映画ファンが差し出したサイン色紙に一言「魂」と書きつけた佐藤監督は、外からは狂気の世界と見える作品を送り出しながらも、ひたすら純粋なものを追い求めていきます。

「わからないやつは血は血にしか見えないだろうが、一種の魂なんだ。美が失われているんだ! 壊されているんだよ。逆に腐った血ならば洗ってやりたいと。自分の気持ちをナイフに込めたいというのはある」
 
以前、佐藤監督は私の取材に答えてそう言っていました。

『華魂』は佐藤監督がこれから連作していく作品の第一部だといいます。

 この作品は、いじめられっ子の女生徒(桜木梨奈)が、追いつめられた挙句に「覚醒」し、意外な形で周囲に復讐を遂げていく……という話だとまずは要約できます。しかしこの映画は和製『キャリー』ではありません。もっと混沌としています。

 ひょっとしたら、既にしてこの世界はどこか狂っていて、それが表に出ているだけではないかという潜在的な歪みがそこに現れます。

 『映画の友よ』では、創刊号、第2号にわたって、ヒロインを不潔視する高校教師の役を演じた女優・安部智凛さんにインタビュー。学校という、神聖である「べき」場所で、己の欲望を異常なぐらい制御しているかにみえるこの女教師。彼女の爆発こそ、『華魂』という映画のトリガーが引かれた瞬間だったのかもしれません。

 ファションモデルであった安部さんが、いかにして血と狂気の映画の女優になっていったのか?

「あなたは汚ない!」とヒロインに対して決めつけ、欲求不満を爆発させる女教師役・安部智凛さんに続き、第3・4号では脚本を担当したいまおかしんじさんの登場です。
 
 いまおかさんもまたピンク映画出身の映画監督で、59年生まれである佐藤寿保監督の六歳年下。脱力系でダウナーといわれる中にも、そこはかとなく人間への共感がにじみ出る作風は、同じく熱い血が流れる人間とぶつかり合いながらも、あるところではバンッ!と切って非人間的なまでの美学に跳躍し、新しい世界の扉を開こうとする佐藤寿保作品とは、水と油にみえます。

 けれども、いまおかさんは助監督時代には佐藤寿保監督作品にも多く付いています。また『乱歩地獄』では監督補も務めました。佐藤寿保について、己との違いも含めて深く知る一人です。

 いまおかさんは山下敦弘監督『苦役列車』など、他監督に脚本を提供することも少なくありませんが、佐藤監督と脚本でコンビを組むのは、これが初めて。そこでどんな化学反応が生まれたのか、伺ってみました。

「『華魂』って、あれ佐藤さん自分で付けたらしいですけど、なんか思いついたんでしょうね。そっからなんか急にガーッて……『これは映画になる』みたいな。でも華魂ってよくわかんなくて、佐藤さんに『華魂ってなんなんすか。花なんですか』って訊いたら『花だよ』って(笑)。『いままでない花がどこかから咲いてくるんだ』みたいな。『たとえば原発で荒れ地になって、何もないところから咲いてくるんだよ。いままで見たことない花が』って」(いまおかしんじ談)


『華魂』
監督・原案 佐藤寿保
脚本 いまおかしんじ
撮影 芦澤明子
出演 桜木梨奈 島村舞花
浅田駿 中村映里子 泊帝 今泉浩
安部智凛 飯島大介
諏訪太朗 不二稿京

〜1/31(土)〜レイトショー
2/1(土)〜モーニングショー
連日トークショー有。31日には私(切通)と佐藤寿保監督が出演します。
新宿ケイズシネマ http://www.ks-cinema.com/

『華魂』公式HP http://www.hanadama-movie.com/


渋谷アップリンク2月5日「RETRO今泉浩一×佐藤寿保」として上映される佐藤監督作品『ラフレシア』上映後トークショーに私(切通)が出演します。開映19時半。上映&トーク後、今泉監督作品の新作『すべすべの秘法』が上映されます。http://www.uplink.co.jp/event/2013/21607


下の写真は、取材時に
安部智凛さんと私が「華魂」手にした
2ショットです。