ピンク映画最後の東京物語

きたる8月16日(土)、新橋ロマン劇場での「最初で最後の舞台挨拶」に上映作品の監督・荒木太郎さん、主演愛田奈々さん、共演里見瑤子さん、那波隆史さんとともに、不肖私が司会として出演させて頂くことになりました。珠玉の三本と共に一緒に時間を過ごしませんか?

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それに合わせ、私が過去「キネマ旬報」に書いた原稿から、今回の上映作品に触れた部分を採録いたします。


2012年のピンク映画大賞で上位となった『さみしい未亡人 なぐさめの悶え』は荒木太郎監督が、小津安二郎の『東京物語』を意識した作品だ。

私にとって、授賞式当日における鑑賞は、同様の趣旨を持つ山田洋次監督『東京家族』が公開された後の、二度目の鑑賞だったが、「震災後に人間関係を問い直す」というその趣旨はいささかも色褪せず感じられた。

山田洋次版では原点で原節子が演じた未亡人役を、蒼井優演じるこれから嫁ぐ娘に変換したことによって清新さをクッキリさせたが、荒木版では愛田奈々演じるヒロインの未亡人の孤独が、夫の死後、稲葉良子演じるもう先の長くない義母によって初めて受け止められるという再生の物語になっており、その時の愛田奈々の頬を涙が濡らす場面は一発本番だと、授賞式に登壇した本人から聞いて私の感慨は新たになった。

本作で東山千栄子の役割をする、物語上の主役は、自由劇場黒テントの実力派女優・稲葉良子で、71歳にして初めて映画に主演する。

夫に死に分れ、自らの死期をも悟った稲葉が息子や娘の家を巡るが居場所はない。里見瑤子演じる長女の部屋は散らかり放題。旦那(小林節彦)に主夫役をさせるフリーライターの彼女は生活も不規則で、やりたい時にやりたいことをするのが身上。だがその怠惰さの方に食われてる感じが母の視点で描かれる。

そして死んだ息子の嫁・愛田奈々と月命日の墓地で再会した稲葉は彼女の部屋に行き、狭く貧しいアパートの一室だが、しっかりと片づけられたその佇まいの中で初めて落ち着いた時間を過ごす。

夫を失い、職場では次々と男たちと淫らな関係に耽っていた彼女だが、ひょっとしたら自分の居場所を守るために身を汚していたのかもしれないとも思わせる。息子の好みの味を探ることを通して、自分の料理も継承されていたことに気付く稲葉。

この映画の愛田は住んでいた押上の商店街がスカイツリーの開発でなくなり、夫は消防団員として派遣された石巻で震災に遭い死んだという設定。夫とでよく行った思い出の映画館が出てくるが、その「石巻日活パール・シネマ」が津波の被害に遭いながら再開したことが本作の発想のきっかけになっている。

ピンク映画館として営業していた同館だが映画の黄金時代を支え、石原裕次郎の映画のノボリなども残っていたのが津波被害に遭った後のボランティアの発掘作業で明らかになった。

そのノボリが立てられるイメージ映像が8ミリ撮影で示された後、いまでも昭和の映画を上映している浅草世界館で稲葉と愛田がお煎餅を食べながら映画を観賞するくだりにつなげる時空を越えたイメージ演出が観客を心の旅に誘う。

映画の最後には、荒木監督自身のナレーションにより、パール・シネマへの「心からの尊敬と感謝」の言葉が捧げられた。

(以上は「キネマ旬報」2012年8月上旬号、2013年6月上旬号の該当部分を再構成)



上の原稿で「いまでも昭和の映画を上映している」と書いた浅草世界館も、その後閉館しました。

そして今月末、東京におけるフィルム上映の最期の成人映画館・新橋ロマン劇場が閉館します。

新橋ロマン劇場、16日の舞台挨拶で、荒木太郎監督は「閉館決起舞台挨拶」をすると言っています。「私達は何を失うのか。その事をはっきり認識する舞台挨拶にしたいと思います」。

東京の成人映画館で見れる、最期のフィルムによるピンク映画の上映です。

皆さん、ロマンポルノ、ピンク映画、過去の名作いっぱいあります。でも、いまのピンク映画の素晴らしさとも出会って下されば幸いです。

16日(土)の午後2時半から、新橋のガード下で、お待ちしております。
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