『ガンダムUC』『人類資金』福井晴敏論そして『イン・ザ・ヒーロー

日本映画をほぼ全部見る批評メルマガ『映画の友よ』。

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最新第19号、配信中されました。


冒頭の部分を以下に掲載します!
 

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切通理作メールマガジン「映画の友よ」
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Vol.019 
<『ガンダムUC』と『人類資金』〜福井晴敏陰謀論」の裏にあるもの><『トランスフォーマー/ロストエイジ』の昭和ヒーロー魂><特撮好きのおっさんが語る『イン・ザ・ヒーロー』><イチオシ映画『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』>ほか

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00 ごあいさつ
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「世の中で俺たちを知っているのは、特撮好きのおっさんだけ」
という『イン・ザ・ヒーロー』の台詞があります。

スーツアクターに焦点を当てたこの映画をどう見たか、
「特撮好きのおっさん」の一人である私が語らせて頂きます。

イチオシ映画は『恋の渦』で鮮烈に出現した門脇麦の本格的主演作『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』。
ヨガの映画ですが、ヨガよりは東京で呑み屋の常連宿を見つけたくなる映画です。

オンラインVHSレンタル店「カセット館」館長の後藤健児さんによる連載では、『トランスフォーマー/ロストエイジ』に、意外にも、日本の昭和ヒーロー魂が込められていることを語ります。

動物シリーズのヒット作『妖獣マメシバ』についての大神明香さんの原稿、今回はついに怪優・佐藤次朗に着目。マメシバを作った人たち特集です!

小佳透子さんの連載寄稿「眼福女子の俳優論」では、女優ミシェル・ウィリアムズの「幸の薄さ」感に迫ります!

そして巻頭に掲げさせて頂いた不肖私の長編批評は「『機動戦士ガンダムUC』と『人類資金』〜福井晴敏陰謀論』の裏にあるもの」。

映画における「演説シーン」のメタ・メッセージ的な魅力について語ります。

ではどうぞ、御一読ください!


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今週の目次
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[00]ごあいさつ
[01] 『機動戦士ガンダムUC』と『人類資金』〜福井晴敏陰謀論」の裏にあるもの
[02] 連載寄稿 カセット館長の映画レビュー 第16回 日本の昭和ヒーローものの精神を受け継ぐ『トランスフォーマー/ロストエイジ
[03] 今号のイチオシ!『シャンティデイズ 365日、幸せな呼吸』
[04] 問題作批評 『イン・ザ・ヒーロー』はスーツアクターの真実を射抜いたか
[05]日本映画ほぼ全批評
・翌朝にジーンと来る映画『ショートホープ
・初めて見る橋本愛がここにいる『リトル・フォレスト 夏/秋』
・祝祭としてのアクション『るろうに剣心 京都大火編』
・二作目にして構造がわかった!『エイトレンジャー2』
・各国の映画祭総ナメ映画の内容とは?『FORMA』
[06] 映画「幼獣マメシバ」シリーズに観る人間考察 第4回 主演佐藤二朗、そして「マメシバ」を作った人びと
[07] 連載寄稿 眼福女子の俳優論 身近な幸の薄さ 映画『ブルーバレンタイン』で観る、ミシェル・ウィリアムズの魅力 筆・小佳透子
[08] あとがき


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01 『ガンダムUC』と『人類資金』〜福井晴敏陰謀論」の裏にあるもの
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ゼロ年代に入ってから何年かの間、角川書店の新年会に行っていたことがある。角川の雑誌に連載していたので、私にも招待状が郵送されてきていたのだ。数百名がホテルの宴会場に集まったその場で、ライトノベルの作家や漫画家、映像クリエーター等華やかな面々の中、地味な評論家である私は、毎年立食でつまめるフード目当てで、腹がパンパンになるまで会場をほっつき歩くのみであった。

だがある年、作家の福井晴敏氏が、社長に先立って、冒頭のあいさつに立ったことは、鮮烈に憶えている。
いまから6〜7年前のことだ。

福井氏は、美辞麗句を述べるのではなく、いきなり、出版不況から話を始めた。

新年一発目から、景気のよくない話など、避けたいのが普通である。
ましてや当時、まだ出版の世界はいまほど落ち込んではいなかったがゆえに、「ウチだけは大丈夫」というムード作りが求められていたことは想像に難くない。新年に大規模なパーティをやる出版社自体、既に少なくなってきていた時代である。

そんな中で、福井氏は口を開いた。いずれ、コンテンツ産業の危機が加速するのは目に見えている。アニメやラノベのオタクの人たちは、比較的優しいから、それでもまだ色々買ってくれているが、そんな日々が、いつまでも続くとは思えない。

これからは、映像の世界も、出版の世界も、おのおのの世界に閉じこもっているのではなく、連動していこうではないか。

福井氏は、こうした趣旨の演説をしたと記憶している。それは私の心にも響いた。
売れっ子作家が、真ん中に居る立場として、文化全体の危機を叫んでいる。

まるで『ガンダム』での、ジオン公国総帥ギレン・ザビの演説のようだと思った。
ギレン・ザビの演説は、主人公のアムロ・レイが所属する地球連邦を脅かす「敵」側のものであったが、新しい時代の脅威の認識と、未来に向かって宣戦布告する気概を、私は感じとった。

それは既成の価値観に対する根本的な揺さぶりをも含んでいたに違いない。「何が売れて、何が売れないか」を単に経験上の蓄積から判断できる時代はもう終わったのだ……と。これからは、「何が必要で、何が不要なのか」をそのつど考える時代に来ているのでは?

この頃、福井氏は、自らが小説を書き、それをストーリー原案としてアニメ版を作り、アニメ版でもプロデュース的に関わる『機動戦士ガンダムUCユニコーン)』を世に送り出そうとしていた。

小説は2007年から2009年にわたって書かれ、アニメ版は2010年に始まり、今年6月に最後の7作目が公開された。

亡国のイージス』や『終戦のローレライ』といった、現実を揺さぶるポリティカルフィクション小説でベストセラーを生み出し、映画化作品もヒットさせてきた福井晴敏。いわば原著作者として地位を築いてからの氏が、なぜに、わざわざ、自分が世に出る前から既に確立している『ガンダム』という有名ブランドに、いまさら深く関わる必要があるのか。

その答えは、先の演説にあったのではないかと、私は思う。

機動戦士ガンダムUC』の小説版は、文庫と、コミック本流通の二種類が同時発売された。コミック本流通では、ティーンエイジが漫画本を手に取る感覚で、書店でも漫画と同じ棚に置いてもらいたいという福井氏の意志があったと聞く。方や文庫版は往年のハヤカワSF文庫を思わせる装丁で、年齢層が上の読者にも目につくようにしていた。

まさに全方位に開かれたものとして、『ガンダムUC』は世に放たれたのだ。


◇演説シーンを見たかった

私は『機動戦士ガンダムUC』の文庫版の中盤が終了した第5巻の巻末に、解説を書かせて頂いた。

解説を書くために、『UC』を、私が講師として働いている高校の食堂で読み返していたら「先生、なんでユニコーン読んでんの?」と教え子から話しかけられた。

やはりユニコーンは、ガンダムの歴史に連なるものとして、ティーンエイジの中で当たり前に浸透している共通言語となっているのだと感じ、嬉しくなった。

私は今度角川書店から出る『UC』の公式レビュー本にも参加したが、こちらは先日最終のゲラチェックを済ませ、近日発売予定である。この公式レビュー本は、先述したコミック本仕様の原作小説の横に置けるよう、同じ装丁にして出す予定だという。自分の批評もティーンエイジが間違って読むかもしれないと考えると、弾む気持ちになる。

実はその公式レビュー本の批評を書くために、チェックしておかなければならないと思いながら、公開時期には見なかった(当時私はまだ「日本映画全批評」を目指すこのメルマガをやってなかったので、つい見逃してしまった)ために、言及できなかった映画がある。

それは、同じ福井晴敏氏が原作と脚本を書いた『人類資金』である。

福井氏の『亡国のイージス』の映画版で監督を務めたこともある、『どついたるねん』『KT』などの作品で知られる阪本順治監督が、戦後の謀略として有名な「M資金」をテーマに映画を作ることを着想。そのストーリーを、福井氏に依頼した。福井氏もともと、習作時代にM資金をテーマにした小説を書いたこともあったので、この提案には乗り気で参加したという。

私がこの映画を、ぜひとも見ておきたいと思ったのは、だがM資金に関心があったからではない。後半のクライマックスで、「演説シーン」があるらしいと、どこかから聞いたせいである。

劇中に登場する、架空の避難民共和国代表を演じる森山未来による、国連での演説。そこでは地球上にある膨大な富をどういう風に分配していけばいいのかという問題に触れているという。

ガンダムUC』にもまた、クライマックスでは全地球圏への放送を通した「演説シーン」がある。

映画で作り手がテーマをむき出しに語るのは愚かなことで、それなら映画など作らずに演説でもすりゃいいんだ……という言い方はよくある。

しかし私は、作品の中で登場人物が「演説」するというのが、意外に好きである。
少なくとも、福井作品のそれには、嫌な感じがしない。

それは、決して福井氏の立場の押し付けではなく、私自身、いま同じ時代に生きている自分の座標軸を捉え直せる気がするからである。


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